更新日: 2020.01.31 控除

ひとり親向けの寡婦・寡夫控除の適用漏れに注意。令和2年度の税制改正で何が変わる?

ひとり親向けの寡婦・寡夫控除の適用漏れに注意。令和2年度の税制改正で何が変わる?
ひとり親家庭等に対する税制からのサポートとして、寡婦・寡夫控除があります。
 
年末調整において控除を受けることができる所得控除ですが、適用要件がわかりにくく、また給与所得者自らが「扶養控除等(異動)申告書」に寡婦・寡夫控除に該当する旨を記載する必要があるため、年末調整において適用を受けることを失念している場合があります。
 
そこで、寡婦・寡夫控除の内容の整理を行うとともに、年末調整において適用を忘れてしまった場合の対応について述べていきます。
 
また、最近では家族のあり方が多様化しているといえますが、ひとり親家庭に関する税制は時代の流れに追いついていない感があります。
 
この課題に対応するため、令和2年度税制改正大綱では、寡婦・寡夫控除に見直しが図られるとともに、未婚のひとり親家庭に対する税制が創設されることとされています。その内容についても簡単に触れてみましょう。
 
星田直太

執筆者:星田直太(ほしだ なおた)

税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))

一般企業勤務を経て、30代から税務会計の世界に入り、税理士とCFPの資格を取得。

税理士法人勤務時には法人税務顧問、ベンチャー支援、事業再生、相続・事業承継といった多様な業務に従事。公的機関での勤務も経験した後、2014年に独立。現在は西新宿に税理士事務所を開業している。

中小企業向けの講演多数。他の専門家とも多く提携しており、ワンストップでお客様のお悩みに対応できる体制を構築している。

「寡婦控除」と「寡夫控除」

「寡婦控除」と「寡夫控除」。どちらも「かふこうじょ」と読みますので、紛らわしいですね。「寡婦控除」は女性向けの税制、「寡夫控除」は男性向けの税制です。所得税と同様に住民税でも控除を受けることができますが、控除額以外の内容は同じですので、以下は所得税の規定に沿って述べていきます。
 

「寡婦控除」とは

寡婦控除には、次の(1)または(2)の2つの形があり、所得控除額は27万円です。扶養親族や同一生計の子がいるかどうかによって、要件が異なります。なお、この条件に該当するかどうかは、通年の状況ではなく、その年の12月31日現在における状況で判断します。

(1) 扶養親族や同一生計の子がいる場合

次の(1)- 1、(1)- 2のいずれも満たす必要があります。
 
(1)- 1
夫と死別や離婚した後婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない一定の人
(1)- 2
扶養親族または同一生計の子がいる
 
この場合の子は、総所得金額等が38万円以下(令和2年分以後は48万円以下に改められます)で、他の人の同一生計配偶者や扶養親族となっている場合は除かれます。
 
また、同一生計の子が16歳未満の場合は扶養控除の対象となる扶養親族には該当しませんが、この寡婦控除の判定には関係ありません。同一生計の子が16歳未満であっても、(1)- 2の要件は満たすことになります。

(2) 扶養親族や同一生計の子がいない場合

次の(2)- 1、(2)- 2のいずれも満たす必要があります。
 
(2)- 1
夫と死別した後婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない一定の人
(2)- 2
自身の合計所得金額が500万円以下
 
(2)の場合は、扶養親族や同一生計の子といった要件は必要ありませんが、ご自身の合計所得金額に要件が付されている点と、離婚が対象外である点に注意が必要です。
 

「特別の寡婦」とは

寡婦控除の対象となる人が、さらに次に挙げる要件すべてに該当した場合は、「特別の寡婦」となり、所得控除額が35万円に増額されます。
 
(3)- 1
夫と死別や離婚をした後婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない一定の人
(3)- 2
扶養親族である子がいる人
(3)- 3
自身の合計所得金額が500万円以下
 
寡婦控除と異なる点は、扶養親族である子がいる場合であっても、ご自身の合計所得金額に要件が付されている点と、子以外の扶養親族(親など)だけがいても特別の寡婦の対象にはならないという点です。
 
また、寡婦控除の要件(1)- 2では、子は同一生計であればこの要件を満たしますが、特別の寡婦では子が同一生計であるだけでは足りず、扶養親族であることが求められます。
 
この点はわかりにくいのですが、本人が個人事業者で子(同一生計)が青色事業専従者である場合、その子は扶養親族にはなれませんので、特別の寡婦(3)- 2の要件を満たさないことになります。
 

「寡夫控除」には「特別の寡夫」という制度はない

寡夫控除には「特別の寡夫」という制度がなく、一種類のみで、所得控除額は27万円です。要件は寡婦控除よりも厳しくなっており、次に挙げる要件すべてを満たす必要があります。
 
(4)- 1
妻と死別や離婚した後婚姻をしていない、または妻の生死が明らかでない一定の人
(4)- 2
同一生計の子がいる
(4)- 3
自身の合計所得金額が500万円以下
 
この場合の子は、寡婦控除の要件(1)- 2と同様です。ただし寡婦控除と異なり、子以外の扶養親族は対象外です。
 

年末調整で適用を受けることができなかった場合

寡婦控除や寡夫控除(以下、「寡婦控除等」)は、年末調整で適用を受けることができます。ただ、扶養控除等(異動)申告書の該当欄への記入を忘れてしまうと、勤務先の年末調整で適切な処理が行われず、控除を受けることができません。
 
この寡婦控除等については、プライバシー保護の点から特にデリケートな控除項目ですので、勤務先においても記入漏れ等について積極的に確認しないことが考えられます。
 
もし、年末調整で控除を受けることができなかった場合、年末調整のやり直しを勤務先に依頼する方法がありますが、ご自身が確定申告をすることでも控除を受け精算できます。
 

令和2年度税制改正大綱の内容(寡婦控除等に係る部分)

税制改正大綱によれば、令和2年分の所得税から寡婦控除等に見直しが入る予定です。詳細については立法化を待ってから確認しなければいけませんが、寡婦控除と寡夫控除の間にあった差が解消される等の対応がなされ、以下のように分類されるようです。
 

 
なお、後述の「未婚のひとり親に対する税制上の措置」と同様に、いわゆる事実婚の状態にあって住民票に一定の記載がある者がいる場合は対象から除かれるようです。
 

令和2年度税制改正大綱の内容(未婚のひとり親に対する税制上の措置)

令和2年分以後の所得税について、寡婦・寡夫以外の未婚のひとり親に対する所得控除制度が設けられます。概要は以下のとおりです。
 
■控除額は35万円
 
■以下の要件をすべて満たす者が対象
(5)- 1
現に婚姻をしておらず、同一生計である子(総所得金額等48万円以下)を有する
(5)- 2
寡婦・寡夫ではない
(5)- 3
合計所得金額500万円以下
(5)- 4
住民票において事実婚であることが明記されていない
 

おわりに

これまで見てきたように、寡婦・寡夫控除は適用要件が複雑で、さらには勤務先からは適用漏れを指摘されにくい制度です。
 
そのため、「自分は該当するかな?」と心当たりがある人は、ご自身で適用要件をよく確認していただき、適用漏れがないように気をつけてください。令和2年分以降は改正も入りますので、その点も注意が必要でしょう。
 
執筆者:星田直太
税理士、ファイナンシャル・プランナー(CFP(R))


 

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