離婚と住宅ローン問題、どう考えればいいですか?

配信日: 2020.02.27 更新日: 2020.07.03

この記事は約 5 分で読めます。
離婚と住宅ローン問題、どう考えればいいですか?
【ご相談内容】
姉のことが心配で相談に来ました。姉・山本奈津美(仮名)41歳には、小学5年生の長男と小学1年生の長女がいます。共働きでしたが、義兄は会社で仕事がうまくいかないストレスからギャンブルをするように。
 
そして、家にお金を入れなくなったそうです。1年前に大げんかをして、義兄は実家へ行ったまま自宅に帰ってきません。姉は、離婚を決意したそうです。
 
姉の年収は500万円あり、なんとかやっていけるといいます。ただ心配なのは、住宅ローンが残っていることです。親の支援を受けながら返済しており、親が元気なうちはなんとかなるかと思います。義兄と話をしても無駄だし面倒だし、名義はこのままにしてまずは離婚したいと言い張っているのですが、大丈夫なのでしょうか?
 
寺門美和子

執筆者:寺門美和子(てらかど みわこ)

ファイナンシャルプランナー、相続診断士

公的保険アドバイザー/確定拠出年金相談ねっと認定FP
岡野あつこ師事®上級プロ夫婦問題カウンセラー
大手流通業界系のファッションビジネスを12年経験。ビジネスの面白さを体感するが、結婚を機に退職。その後夫の仕事(整体)で、主にマネージメント・経営等、裏方を担当。マスコミでも話題となり、忙しい日々過ごす。しかし、20年後に離婚。長い間従事した「からだ系ビジネス」では資格を有しておらず『資格の大切さ』を実感し『人生のやり直し』を決意。自らの経験を活かした夫婦問題カウンセラーの資格を目指す中「離婚後の女性が自立する難しさ」を目のあたりにする。また自らの財産分与の運用の未熟さの反省もあり研究する中に、FPの仕事と出会う。『からだと心とお金』の幸せは三つ巴。からだと心の癒しや健康法は巷に情報が充実し身近なのに、なぜお金や資産の事はこんなに解りづらいのだろう?特に女性には敷居が高い現実。「もっとやさしく、わかりやすくお金や資産の提案がしたい」という想いから、FPの資格を取得。第二の成人式、40歳を迎えたことを機に女性が資産運用について学び直す提案業務を行っている。
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共有名義を残したまま離婚するリスク

離婚の際に話し合いをするのは面倒なことかもしれません。もめている2人が建設的に、財産分与や子どもの将来のための養育費・面会交流の話し合いをするのは、相当大変なことです。ですから奈津美さんのように、「もういいや!」という人は、実に多いのが現状です。
 
「離婚」が決まるまでもさまざまな問題に悩み、苦しんだと思います。だから「もう、とっとと別れられればそれで良い」というお気持ちはお察しします。しかしそれは、とても危険なこと。そこは、冷静に考えていただきたいと思います。苦しいとは思いますが、清算はしっかり済ませることをお勧めします。
 
昨年、離婚後15年たった女性(以下、元妻)から相談がありました。その方たちはマンションを共有名義のまま離婚をしてしまいましたが、元夫は離婚後仕事がうまくいかず、管理費と社会保険料が納められなくて自宅マンションを差し押さえられました。当然、売却をして返済をしなくてはならなかったので家を売ることに。
 
しかし、「売却で得たお金-借金=赤字」となってしまったのです。これは元妻が補填をすることになりました。もちろん、放棄しても良かったのですが、元夫は自身の子どもの父親です。元妻だけに、元夫のだらしなさも知っていました。元夫が他人から借金をすることで、子どもたちに迷惑をかけないでほしいという気持ちもありました。
 
その結果、元夫婦間で公正証書により、借金契約を結ぶことになったのです。元妻は、「離婚時に共有名義を清算しなかったからですね」と反省していました。離婚後、お互い監視下にない“他人”が財産を共有するのはリスキーなこと。奈津美さんにはこの件を例としてお話しして、「他人ごとではない」ということをご理解いただき、清算をする決断をしてもらいました。
 

 

銀行は妻名義を嫌う

現在は価値観が多様化していますが、一方で、実際にはまだまだ男尊女卑や“昔ながらの”一般論があります。特に銀行は、コンプライアンスや基準が固い機関です。
 
最近は共働きが多く、夫婦の収入を合算し、不動産を購入するケースが多くなりました。離婚をするということは「融資可能額の評価が1人分になる」と言っても過言ではありません。
 
その状態で、銀行は簡単には「共有名義」を「妻名義」に変更することはしません。いくつか選択肢があると思うのですが、まずは、離婚時の不動産問題に強いコンサルタントに相談することをお勧めします。その際の手順は下記となります。
 
1:自宅の評価額の査定
2:「1」とローン残債との収支
3:オーバーローン(売却金額-ローン残債=赤字)の場合は、別途対策
4:名義変更をするのか、夫婦間売買をするのか検討
5:実質サポート

 
コンサルタントは銀行と契約者の窓口となり、上記のスキームを立て、交渉をしてくれます。このような人を味方につけることにより、費用は発生しますが、名義変更または夫婦間売買がスムーズにできるようになります。

勤務先の形態で評価は変わる

今回、奈津美さんには交渉人として不動産ローン専門のFP(ファイナンシャルプランナー)を紹介し、名義変更が成立できました。名義変更をするためには銀行からの「条件」提示があり、それらを一緒に対応をしました。ただし、誰もがこの壁を乗り越えられるわけではありません。
 
奈津美さんの会社が一部上場企業だったこと、銀行が認める資格を奈津美さんが有していたことから名義変更が成立しました。もし、銀行が提示した条件をクリアできなければ、断られていたかもしれません。その場合は、売却してその現金を財産分与するしかなかったかもしれません(今回のケースでは、財産分与はなく、養育費の代わりに元夫は財産分与を辞退しました)。
 
実は、名義変更の条件をクリアするために離婚時期を延ばして、環境づくりをしている夫婦もいます。家庭内別居をしながら離婚準備をしている……不思議な光景です。

オーバーローンの場合には

「売却で得たお金-住宅ローンの残債=赤字」のことをオーバーローンといいます。オーバーローンになってしまった場合は、自分たちの金融資産から不足分を支払うか、ない場合は身内など、貸してくれる人がいたら補填してもらうことになります。しかし、身内等にそのような方がいない場合は「任意売却」という方法があります。
 
通常、オーバーローンが予測される場合は、抵当権がついている不動産の売却はできません。しかし、それでは困るので、金融機関の合意を得て売却する方法が「任意売却」です。要は、不動産を売却した後も借金は残り、赤字分のローンの返済が必要となるということです。
 
「任意売却」を扱っている不動産業者が、金融機関と交渉をして「任意売却」をしてくれます。ただし、人の弱みにつけこむ悪徳な業者もいますので、慎重に選んでください。

リースバックで財産分与の軍資金をつくる

最近では「リースバック」をして財産分与を行い、夫婦どちらかがその家に住み続けるというケースもあります。「リースバック」とは、自宅をリースバック取り扱い不動産業者に売却し、そのままその自宅に住み続けることができるという方法です。この場合の条件は、「不動産価値のある物件」に限られてしまいます。
 
リースバックの詳細については、別のコラム(※)で記載していますのでご参照ください。

山本奈津美さんのゴール

奈津美さんは、将来のリスクを考えてご主人と話し合いをしました。それまでご主人はかたくなに心を閉ざしていましたので、夫婦カウンセリング後、話し合いを決行。公正証書を作成し、無事協議離婚が成立。同時進行で、住宅ローン専門のFPに銀行との交渉を依頼し、アドバイスを受けながら、奈津美さん名義の変更も無事完了しました。
 
奈津美さんは「話し合うのは面倒だったけど、いろいろな意味でスッキリして良かったです。公正証書も交わせて安心しました」とのことでした。
 
(※)ファイナンシャルフィールド「老後資金を確保したいけど、財産は自宅のみ。そんな時に役立つ「リースバック」とは?」
 
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士


 

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